DMPK 34(1)に掲載された各論文の「著者から読者へのメッセージ」
[Regular Article]
健康成人においてOATP1B1の遺伝子多型がOATP1B1の内在性基質及び基質薬物の血漿中濃度に与える影響とその相関
Mori, D., et al.
Organic anion-transporting polypeptide 1B1(OATP1B1)は肝特異的に発現し,OATP1B3と共にスタチンやサルタン等の肝取り込みを担う.近年生体内のOATP1Bの機能評価に適したプローブとして複数の内在性基質が見出され,創薬の早期において候補化合物の薬物相互作用リスクを検出することが可能になると期待されている.本論文ではOATP1B1の機能低下を伴うSNP(521T>C)が内在性基質及びOATP1Bのプローブ薬(スタチン)に与える影響を評価した.本臨床試験はOATP1B1遺伝子多型で層別化した同一被験者内で内在性基質及び基質薬物を比較した初の試験である.LC-MS/MSによる定量の結果,coproporphyrin Iと胆汁酸硫酸抱合体がスタチンと同様*1b/*1bに比べて*15/*15で高い血漿中濃度を示し,OATP1B1を介したクリアランス機構を有することが示唆された.残念ながら,本試験では,*15/*15を2例しか見出すことが出来なかったが,今後,他の報告と統合した解析により,結論に至るものと考える.内在性プローブの情報が集積し創薬及び臨床現場で利用されるようになることで,医薬品開発のコスト削減や安全な薬物療法に繋がることを期待する.
[Regular Article]
合成抗菌薬トリメトプリムによる腎尿細管分泌における薬物間相互作用の解析
Kito, T., et al.
H+/有機カチオン交換輸送体(MATE)は腎臓の刷子縁膜側に発現し,血中から尿細管上皮細胞内に取り込まれたカチオン性薬物の尿中排泄に寄与している.抗菌薬トリメトプリムは,健常人被験者に於いて,MATE基質薬物の腎排泄を低下させるとの報告があり,薬物間相互作用機序の解明が課題だった.トリメトプリムは臨床投与量での最大濃度でMATE1を中程度,MATE2-Kをほぼ完全に阻害するだけでなく,トリメトプリム自身もMATE基質であることを見出した.マウスin vivo PK試験において,トリメトプリムの腎クリアランスの飽和とともに,Mate1基質の尿中排泄速度を低下させることを明らかにした.これらの結果は,トリメトプリムがMATE阻害により薬物間相互作用を引き起こしていることを示唆する.トリメトプリムとMATE基質化合物との併用により,腎臓内蓄積による副作用リスクが上昇している可能性もあり,MATEに着目したさらなる検証が必要である.MATEが,当初の予想よりも幅広い薬物輸送に関わっていることや,尿路感染症の治療などで身近に使用されているトリメトプリムの輸送に大きく関わっていることが分かり興奮した.この研究を通じて,トランスポーター研究の面白さ,重要性を実感した.
[Regular Article]
Na+/モノカルボン酸共輸送担体(SLC5A8, SMCT1)を介した
2,4-dichlorophenoxy acetic acid(2,4-D)の輸送
Sugio, K., et al.
Na+-coupled monocarboxylate transporter 1 (SMCT1) は腎尿細管刷子縁膜に局在し生体の機能維持に重要なモノカルボン酸(乳酸やピルビン酸など)を効率よく再吸収し,体内に貯留する役割を担っている.SMCT1は基質認識においてカルボキシル基を必須とするが,基質となる化合物の母核構造に対する認識についてはある程度の寛容性を有し,ブロードな基質認識を行っている.本研究において,腎毒性を引き起こすフェノキシ酢酸系除草剤,2,4-dichlorophenoxyacetate (2,4-D) をモデル化合物として用い,SMCT1の基質認識機構の解明を行った.結果,SMCT1は,Na+依存的に2,4-Dを輸送し,SMCT1による2,4-Dの基質認識においては,カルボキシル基のみならず,ベンゼン環の2位と4位の2つのClも重要な役割を果たしていることが明らかとなった.更に,2つのClの表面電荷を計算により求めたところ,σホールを形成し,プラスの電荷を帯びていることが明らかとなり,SMCT1が双性イオンを認識する能力を有していることが示唆された.現在,これらの知見に基づいて,SMCT1の基質認識機構のより詳細な解析を行っている.
[Note]
カニクイザル フラビン含有酸素添加酵素3(FMO3)における遺伝子多型の解析
Uno, Y., Shimizu, M., et al.
カニクイザルFMO3はヒトFMO3のオーソログであり,肝臓で高く発現しヒトFMO基質を代謝している重要な薬物代謝酵素である.齧歯類やブタではFMO3ではなくFMO1が肝臓での主要FMO分子種であることから,ヒトのFMO代謝を予測するうえでカニクイザルが重要な動物種である.ヒトではFMO3遺伝子多型がFMO代謝における個体差の一因であることが明らかになっているのに対し,カニクイザルFMO3の遺伝子多型は調べられていなかった.本研究では,64頭のカニクイザルと32頭のアカゲザルを調べることにより,18種類の非同義置換変異を見出すことに成功した.変異タンパクと肝ミクロゾームを用いた代謝酵素活性測定の結果,酵素機能に影響を及ぼす変異を数種見出した.これらの変異は,サルFMO3の代謝機能の個体差に重要な役割を果たしているかもしれない.
[Note]
アムロジピンと活性炭の相互作用の程度は食事摂取により減弱する
Imaoka, A., et al.
薬物の消化管吸収過程における,物理的吸着による薬物相互作用(DDI)は,最適な薬物治療の障壁となる.一方で,臨床現場において,薬剤は食後に服用することが多いにも関わらず,DDIに対する食事の影響を評価した臨床試験はほとんど実施されていない.本研究では,ラットを用いて,アムロジピンと活性炭のDDIの程度に対する食事摂取の影響を評価した.本研究の特徴は,ラットに与えた食事や薬剤は,ヒトが実際に摂取する標準朝食や,上市されている製剤そのものを用い,それらの投与量を,ヒトで想定される消化管内濃度を基準に設定したことである.これにより,ヒトにおけるDDIの程度を再現したうえで,その程度が食事摂取により減弱することが明らかとなったため,ヒトにおいても同様の結果が得られる可能性が高い.したがって,本モデルを用いることで,物理的吸着に起因するDDIを定量的に予測することができ,それに対する食事の影響も評価できると考えている.今後は,食事摂取によるDDI減弱のメカニズムについて解明していきたい.