Newsletter Volume 33, Number 1, 2018

受賞者からのコメント

 写真:金光佳世子

DMPK最優秀論文賞を受賞して

金光佳世子1) 2),荒川亮介3),杉山雄一4),須原哲也3),楠原洋之1)

  1. 東京大学大学院 薬学系研究科 分子薬物動態学教室
  2. 大塚製薬株式会社 徳島研究所
  3. 放射線医学総合研究所 分子イメージング研究センター
  4. 理化学研究所 イノベーション推進センター 杉山研究室

 この度,私共の論文“Prediction of CNS occupancy of dopamine D2 receptor based on systemic exposure and in vitro experiments”が2017年度DMPK最優秀論文賞に選ばれましたこと,誠に光栄に存じます.ご選考くださいました編集委員の先生方に心より感謝申し上げます.

 ドパミンD2受容体拮抗薬は主に統合失調症の治療に用いられており,陽電子放射断層撮影(PET)等の試験から,脳内D2受容体の占有率は70-80%の間が適した範囲であり,80%を超えた患者で錐体外路への副作用リスクが高くなると提唱されています.日本において第二世代の統合失調症治療薬として用いられているquetiapineとperospironeを経口投与後,perospirone(消失半減期t1/2:1.9時間)はquetiapine(t1/2:3.1~5.5時間)よりも速く体循環から消失します.一方で,perospironeによるD2受容体占有率は投与後25.5時間において31%以上だったのに対し,quetiapineによる同じ時点の占有率は1%以下であり,perospironeはquetiapineよりも占有率の持続が長いことが判明しました.この原因は何か?を探るのがこの研究を始めたきっかけです.

 当初,perospironeの方がquetiapineよりもD2受容体に対する阻害定数(Ki値)が低く,受容体に結合した後の解離が遅いためではないかと考えました.しかしながら,実測したperospironeの解離半減期は15分と短く,占有率持続の違いを説明するには不十分であると判断しました.次にperospironeの代謝物であるID-15036には薬理活性があり,最高血漿中濃度は未変化体の4倍程度になるため,これが中枢作用に関与しているのではないかと考えました.そこで各種パラメーターを取得し,脳内占有率時間推移のモデリング&シミュレーションを行ったところ,代謝物は占有率の最高値では6割程度寄与しているものの,投与24時間後にはほとんど寄与していないと考えられました.最終的に,感度分析やin vitro, in vivoによるPK/PDパラメーター検討の結果,perospironeによる占有率の持続は,脳内の非結合形分率が小さいため脳内の分布容積が大きくなった結果,脳からの消失が遅くなったことが原因であると考えられました.

 一般に中枢薬の開発は難しいと言われています.血液脳関門が中枢を血管循環から隔離しているため,血中の非結合形薬物濃度が必ずしも薬物の中枢における薬効の指標とはならないことが一つの原因と考えられます.本取り組みは,医薬品開発のための臨床試験デザイン,オンターゲット及びオフターゲット作用の予測,臨床における薬物間相互作用が中枢作用に及ぼす影響の予測にも役立つと期待しています.

 最後になりましたが,本受賞にあたり,お世話になりました方々に深謝いたします.