Newsletter Volume 33, Number 1, 2018

受賞者からのコメント

 写真:田中晶子

優秀口頭発表賞を受賞して

京都薬科大学薬剤学分野
田中晶子

 第32回年会日本薬物動態学会において優秀口頭発表賞という栄誉ある賞をいただき,誠にありがとうございます.年会長の高野幹久先生をはじめ,審査いただきました選考委員の諸先生方に厚く御礼申し上げます.

 私は本年会において,「新規肥満治療システムの開発を目的としたType2 ニューロメジンU受容体選択的アゴニストペプチドの鼻腔を介した脳への送達」という演題で発表させていただきました.ニューロメジンU(NMU)はブタの脊髄から単離された内因性ペプチドで,摂食抑制やエネルギー代謝亢進作用を示します.私達はすでに,Type2 NMU受容体のアゴニストであるCPN-116(CPN)の創製に成功しておりますが,Type2 NMU受容体は脳・視床下部にのみ発現するため,肥満治療薬として開発するためには,脳への送達が不可欠です.そこで,私たちはCPNを効率よく脳内に送達する戦略として,鼻腔内投与に注目しました.現在,鼻腔は脳への薬物送達を可能にする投与部位として注目されています.まず,CPNの脳内移行性について検討したところ,血漿中濃度に対する脳内濃度の比は腹腔内投与群に比べて鼻腔内投与群で高く,さらに鼻腔に最も近い嗅球で濃度が最も高かったことから,鼻腔内投与によりCPNが脳内へ効率よく送達されている可能性が示されました.また,体重変化・摂食量を指標に薬理効果を測定したところ,鼻腔内投与により,体重増加及び摂食量が投与量に依存して有意に抑制され,鼻腔内投与によるCPNの脳内送達を薬理効果でも確認することができました.さらに中枢作用の指標として血中コルチコステロン(CCS)濃度を測定したところ,CPN鼻腔内投与により,ストレスによる血中CCS濃度の上昇が顕著に抑制されたことから,鼻腔内投与されたCPNは脳へ送達された後,Type2 NMU受容体を介して薬理効果を示すことが明らかとなりました.本成果は鼻腔内投与によるCPNの効率的な脳内送達の可能性を示唆するものであり,肥満治療薬の開発に対して有用な基礎的情報を提供すると考えています.

 最後に,本研究の遂行に際して,終始懇篤なる御指導・御鞭撻を賜りました京都薬科大学 山本 昌教授,直接の御指導・御助言を賜りました神戸薬科大学 坂根稔康教授,さらに種々の貴重な御指導・御助言を賜りました京都薬科大学 勝見英正准教授に深謝申し上げます.また,CPN-116 を提供いただきました東京薬科大学 林 良雄教授,高山健太郎講師にも深く御礼申し上げます.今回の受賞を励みに,より一層努力を重ね,研鑽を積んで参りたいと考えています.