受賞者からのコメント
ベストポスター賞を受賞して金沢大学医薬保健研究域薬学系
|
この度,第32回薬物動態学会におきまして,ベストポスター賞を賜り,ご審査いただいた先生方を始め,有意義な議論を交わしていただいた皆様に心より御礼申し上げます.
RNA編集とはRNA上の塩基が別の塩基に置換される転写後調節であり,コードされるタンパク質の機能や発現に影響を与えることが知られていますが,薬物代謝酵素などの薬物動態関連因子におけるRNA編集の意義は不明でした.最近,私たちは芳香族炭化水素受容体 (Nakano et al., J Biol Chem 291: 894-903, 2016) およびジヒドロ葉酸還元酵素 (Nakano et al., J Biol Chem 292: 4873-4884, 2017) の3’-非翻訳領域上で起こるRNA編集がこれらのタンパク質発現に影響を与えることを明らかにし,その研究成果を第30回および第31回日本薬物動態学会においてそれぞれ発表いたしました.さらに薬物動態制御におけるRNA編集の役割の解明に向けて,RNA編集による恒常的アンドロスタン受容体 (CAR) の発現制御に関して検討を進め,本学会では「RNA編集による恒常的アンドロスタン受容体の転写後発現調節」という演題で発表しました.本研究において,ヒト肝がん由来HepG2細胞を用いてRNA編集酵素ADAR1をノックダウンした際,CARの発現量が増加したことから,RNA編集がCARの発現を負に制御する方向に働いていることを明らかにしました.CARはCYP2B6やCYP3A4などの薬物代謝酵素の発現を制御する核内受容体ですが,RNA編集によるCAR発現制御がこれらの下流遺伝子の発現にも影響を与えることを見出しました.また,この負の発現制御において,ADAR1がCAR mRNAのスプライシングを変化させている可能性が示唆されました.今後,その詳細なメカニズムを解明していく予定です.本研究により,薬物動態のマスターレギュレーターであるCARの発現にもRNA編集が関与することが明らかになり,薬物動態制御におけるRNA編集の重要性について有用な知見を得ることが出来ました.
最後になりましたが,本研究の遂行に際してご指導いただいた当研究室の中島美紀教授,深見達基准教授にこの場をお借りして深く御礼申し上げます.3年ほど前に私たちがRNA編集に関する研究に着手して以来,薬物動態に与えるRNA編集の影響が徐々に明らかになってきました.今回の受賞を励みに,本研究の更なる発展に向けてより一層研究に励みたいと思います.