Newsletter Volume 32, Number 5, 2017

展望

玉井郁巳

JSSXトランスポーターDIS

金沢大学医薬保健研究域薬学系
薬物動態学研究室
玉井郁巳

メンバー
代表世話人 玉井郁巳 金沢大学医薬保健研究域薬学系,薬物動態学研究室
世話人 井上勝央 東京薬科大学薬学部,薬物動態制御学教室
大槻純男 熊本大学大学院生命科学研究部薬学系,薬学微生物学分野
前田和哉 東京大学大学院薬学系研究科,分子薬物動態学教室
奥田真弘 三重大学医学部附属病院,薬剤部
石黒直樹 日本ベーリンガーインゲルハイム神戸医薬研究所,薬物動態安全性研究部
島洋一郎 EAファーマ株式会社,創薬研究所テーマ創出推進部テーマ推進グループ
野沢 敬 アステラス製薬,研究本部,薬物送達PI

 

 トランスポーター研究は,過去30年にわたりJSSXが世界をリードする分野であり,JSSX年会における発表も関連話題が多い.そのため2012年のDIS組織化以来継続的な活動を行っている.現在は大学,企業,病院で活躍されているメンバー総勢8名から構成されており,トランスポーター関連の年会シンポジウムについて議論・提案している.

 製薬企業の視点からは,このところPMDA/FDA/EMAからのガイドラインに則して薬物相互作用対象となるトランスポーターの解析・評価手法やモデリングによる動態予測に関心が高く,本DISでも関連したテーマを独自あるいはレギュレーションDISと共同で提案してきた.一方,ガイドラインが提案されるということは,関連研究はある程度成熟してきたことの表れでもあり,今後の新しい展開を早急に進める必要があることを意味している.薬物相互作用ガイドラインの検討対象となり,いつとはなしに呼ばれるようになったいわゆる「薬物トランスポーター」分子はせいぜい10種類程度であり,ヒトに備わるトランスポーター全体からすればごく一部に過ぎない.比較的最近上市された糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬などトランスポーターが薬効標的となる例を見れば,疾患原因あるいは創薬ターゲットとなりうる分子は未だ埋もれた状態にあると言える.また,現在の情報のみでは説明できない薬物動態特性の原因,さらには未だ注目度が低いものの,医薬品の副作用にトランスポーターが関連する可能性も十分ある.また,創薬とは直接関係なく,生命の謎に迫るトランスポーターの基礎研究情報は,多く残されていることは想像に難くない.即ち,トランスポーター研究という点では,見方を変えればまだまだ情報は不十分なのが現状である.

 そのような観点での情報発掘,あるいは研究の方向性の示唆を含めたトランスポーター研究の話題を提供するのが本DISの使命と考えている.具体的には,2015年には,「Unexpected observation related to transporters found during drug development:医薬品開発段階や臨床において観測されたトランスポーターに起因する予期せぬ現象とその後の展開」,また今年2017年は「Transporter meets new fields:トランスポーター研究の広がり」というテーマを提案した.今年の内容は,炎症,肝炎,iPS細胞など,すぐには関連が思いつかないが,トランスポーターが深く関わっている,あるいはトランスポーター機能を考慮することが不可欠であることを示す内容を含むシンポジウムとなる予定である.

 海外からの参加者の中には,最もバライエティ―に富んだトランスポーター関連情報が得られる場としてJSSX年会を選ぶ研究者もいる.そのような魅力あるトランスポーター研究の最先端情報ならびに実用的情報を得られる場としてJSSX年会を盛り立てるためにも,今後もトランスポーターDISは議論を重ねていく所存である.