Newsletter Volume 32, Number 4, 2017

技術・研究材料紹介(企業広告)

in vivo Kiを活用したDDI Simulator®による薬物相互作用の定量的予測

株式会社富士通九州システムサービス
ヘルスケアソリューション本部 ライフイノベーション部 小橋章子

 代謝阻害に基づく薬物相互作用の定量的な予測結果に大きく影響する要因の一つとして,阻害薬の阻害定数(Ki)が挙げられる.加藤ら(Kato M et al., Pharm Res, 25, 1891-901(2008))は,in vitro試験により得られたKi値(in vitro Ki)と,ヒト臨床薬物相互作用試験の結果から生理学的薬物速度論(PBPK)モデルを使用して当てはめ計算により算出したKi値(in vivo Ki)の間には,乖離があることを報告している.また,in vivo Kiin vitro Kiの比(Ki ratio(in vivo Ki/in vitro Ki))は,阻害薬のclogPと一定の相関があることを見出している.そこで,より一般性を高めるため,加藤らの先行研究で評価されていた臨床薬物相互作用事例の種類をさらに増やしてPBPKモデル解析を実施することで,in vitro Kiin vivo Ki,clogPおよびin vitro Kiの情報に基づき上述の相関関係から導かれるpredicted in vivo Kiのそれぞれを用いた場合での相互作用の予測精度の比較を行った.Cytochrome P450(CYP1A2,2B6,2C8,2C9,2C19,2D6,3A4) の可逆的阻害薬を対象に臨床薬物相互作用試験よりin vivo Kiを算出し,これらとin vitro Ki,clogPとの関連から,加藤らが提唱する相関式の係数のみを変更する形でpredicted in vivo Kiの算出式を再作成した.

 薬物相互作用予測ソフトフェアDDI Simulator®(富士通九州システムズ製)を使用し,臨床薬物相互作用試験について,それぞれのKi値を使用した場合におけるAUC比(臨床薬物相互作用試験時のAUC(阻害薬あり)/AUC(阻害薬なし))の予測精度の比較を行った.本ソフトウェアはin vitro Kiin vivo Ki両方のデータベース,およびpredicted in vivo Kiの算出機能を搭載している.

表1:DDI Simulator®で使用する3種類のKi
Ki値の種類 定義
in vitro Ki in vitro阻害実験より算出したKi
in vivo Ki 臨床薬物相互作用試験の結果からPBPKモデルを使用した当てはめ計算により,算出したKi
predicted in vivo Ki in vivo Ki/in vitro Ki値とclogPとの間の相関式を作成し,予測したKi

1. 生理学的薬物速度論(PBPK)モデル

 利用したPBPKモデルを図1に示す.

図1 PBPKモデルの模式図

図1 PBPKモデルの模式図
(引用: Kato M et al., Pharm Res., 25, 1891-1901 (2008))

2. in vivo Kiを活用した薬物相互作用予測 ~Ki値の種類によるAUC比の予測精度の比較~

 DDI Simulator®に登録されている化合物を使用し,104ケースについて薬物相互作用予測を行った結果を図2に示す.

 in vitro Kiを使用した場合,AUC比の実測・予測値の間の誤差が2倍以内に収まっている割合は49%であったのに対し,in vitro Kiからin vivo Kiを予測したpredicted in vivo Kiを使用した場合は87%,in vivo Kiを使用した場合は90%とより高い予測精度であった.

図 2 Ki値の種類によるAUC比の予測精度の比較

図2 Ki値の種類によるAUC比の予測精度の比較
(引用:19th North American ISSX Meeting /29th JSSX Meeting, San Francisco, CA, USA, Oct. 2014)

3. fu,micによるKi値の補正の効果

 in vivo Kiin vitro Kiの乖離の原因の一つとして,阻害薬のヒト肝ミクロソームへの非特異的な結合によるインキュベーション液中の阻害薬の実効濃度の低下が考えられる.そのため,in vitro Kiをfu,mic(ミクロソーム実験系における薬物の非結合形分率)により補正した47ケースについて,薬物相互作用の予測精度について検証を実施した結果を図3に示す.

 fu,micを用いてin vitro Kiを補正することで,予測精度の若干の改善はみられた.しかし,predicted in vivo Kiおよび in vivo Kiを使用する方が,依然としてより良好な予測が実現されることが示された.

図3 fu,micにより補正したKi値によるAUC比の予測精度

図3 fu,micにより補正したKi値によるAUC比の予測精度
(引用:19th North American ISSX Meeting /29th JSSX Meeting, San Francisco, CA, USA, Oct. 2014)

まとめ

  • 代謝阻害に基づく薬物相互作用(DDI)の定量的な予測では,阻害薬の阻害定数(Ki)が予測結果に大きく影響を及ぼす要因となる.
  • in vitro Kiin vivo Kiには乖離があるため,DDI Simulator®のデータベースに登録されている阻害薬のin vivo Kiを使用することで,より精度の高い薬物相互作用の予測が可能である.
  • DDI Simulator®では,臨床薬物相互作用試験が行われていないin vivo Kiが不明な薬物についても,in vitro KiとclogPから相関式を用いて算出することができるpredicted in vivo Kiを使用することで,より精度の高い予測が可能である.
  • in vitro Ki値をミクロソームへの阻害薬の結合を考慮して補正すると,若干予測性は改善するが,predicted in vivo Kiおよびin vivo Kiを使用した方が,依然としてより精度の高い予測が可能である.

【新機能のご紹介】薬物動態パラメータ算出のためのフィッティングツールについて

 DDI Simulator®を用いて薬物相互作用のシミュレーションを行うためには,薬物動態パラメータを算出する必要がある.

 薬物動態パラメータの算出には,非線形最小二乗法による当てはめ計算が必要だが,今回,フィッティングツールを開発し,DDI Simulator®のパラメータをシームレスに算出・シミュレーションに活用することが可能となった.PBPKモデルの式はすでに実装されているため,ユーザ自身でモデル式を定義する必要はない.また,フィッティングツールに従って入力するだけで,パラメータ算出の流れを容易に理解することができる.算出したパラメータは,DDI Simulator®へ取り込み可能な形式で出力することができ,DDI Simulator®のパラメータ算出からシミュレーションの実行までを,スムーズに行うことができるようになった.

 フィッティングツールでは,図4の手順で薬物動態パラメータを算出する.非線形最小二乗法に基づき,表2のモデルに対してフィッティングを行うことができる.

図4 薬物動態パラメータの算出手順

図4 薬物動態パラメータの算出手順

 

 

 

 

表2:フィッティングツールでフィッティングを行うことができるモデル
No. モデル
1 1-コンパートメントモデル 末梢なし
2 2-コンパートメントモデル 末梢あり
3 1-コンパートメントモデル(ラグタイム有) 末梢なし
4 2-コンパートメントモデル(ラグタイム有) 末梢あり
5 PBPKモデル 末梢なし
6 PBPKモデル 末梢あり
7 PBPKモデル(ラグタイム有) 末梢なし
8 PBPKモデル(ラグタイム有) 末梢あり

 

図5 フィッティングツール(PBPKモデル)を用いたフィッティング結果の一例

図5 フィッティングツール(PBPKモデル)を用いたフィッティング結果の一例

 フィッティングツールは,フィッティングの機能のみを単独で利用することも可能であり,薬学部学生や薬物動態学の初学者を対象とした薬物速度論の演習・理解のためにも有効に活用できると考えている.

※薬物相互作用予測ソフトウェア「DDI Simulator®」については,株式会社富士通九州システムズ/株式会社富士通九州システムサービスまでお問い合わせください.