展望
有効性・安全性評価DISの活動について東京大学大学院薬学系研究科
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この度,新たに「有効性・安全性評価DIS」が立ち上がりました.本DISは,私のほかに,伊藤晃成(千葉大学),奥平典子(第一三共),小柳 悟(九州大学),高田龍平(東京大学),立川正憲(東北大学),山崎 真(田辺三菱製薬)(敬称略)で構成しています.
医薬品開発の中止理由として,有効性・安全性が大部分を占める中で,狭義の薬物動態・代謝研究に加えて,薬物動態学研究者はヒトにおける有効性,安全性研究にコミットすることも,期待される役割の1つです.医薬品の有効性・安全性に関連したバイオマーカーを同定,医薬品開発に利活用することで,臨床試験や臨床適用における有効性・安全性プロファイルの最適化を指向した患者の層別化や,医薬品開発の早期における開発候補化合物の有効性に関するProof of Conceptや安全性担保のメカニズム解析など,医薬品開発の効率化や成功確率の上昇が期待されます.新たなバイオマーカーの探索や,その経時変化を考慮し,薬物投与との関係を数理的に説明することは,薬物動態学が活躍する場です.本DISでは,そのようなバイオマーカーをいかに確立し,有効に利用していくかを,薬物動態学の視点から皆さんと考えていくことがメインミッションと考えています.血中動態や標的組織への移行,微小空間における分布,被験者のゲノム情報や遺伝子・蛋白質の発現プロファイル,代謝物プロファイルなどを評価するための新たな原理に基づいた測定法,その解析方法や妥当性を検証するための方法論開発,相関論に留まらない機構的な妥当性の実証方法の開発,レギュラトリーサイエンスへの展開など,本DISが対象とすべき領域は多岐に渡りますが,他のDIS活動とも連携することで,集学的な活動が実現できるものと考えています.さらに,この活動を通じて,様々な背景をもった研究者間のネットワークを構築し,議論を経て新たな視点の獲得に到達することで学会活動の活性化にも貢献できるものと期待しています.
バイオマーカー探索の手法として,中心となる技術の1つはオミクスであることは疑いの余地はありません.オミクスは生体中に存在する分子全体を網羅的に研究する学問として出現以降,ゲノム,転写物,タンパクやその翻訳後修飾と対象にする階層を広げ,ついにタンパクが生成するプロダクトである代謝物も網羅的に捉えることができるようになりました(メタボロミクス解析).さらに,すでに年会で紹介されているように各階層で生じている現象を個別に捉えるのではなく,転写物,タンパク,代謝物の各階層におけるオミクス解析の結果を,統合的に捉えるトランスオミクス解析も実現されています.
代謝物の変動を薬物応答のバイオマーカーとする学問体系は,ファーマコメタボロミクスと呼ばれ,転写産物・タンパクの発現では説明できない生体・細胞応答を検出する新たな学問体系として注目されています.これまでに薬物動態領域でも,CYP3A4の活性評価指標として,血漿および尿中6β-hydroxycortisol/cortisol比や血漿4β-hydroxycholesterol/cholesterol比のように内在性代謝物が利用されています.また,Giacominiらのグループが報告(Clinical Pharmacol Ther, 100:524-536, 2016)したように,ゲノムワイドに遺伝子変異と代謝物濃度の個人間変動との関連解析により,特定の血漿中代謝物濃度と薬物代謝酵素やトランスポーターの遺伝子多型とが関連することが解明されており,今後,薬物相互作用への評価指標としての活用が期待されています.実際,International Transporter Consortiumにおいても,内在性代謝物を代替プローブとして,First-in-Human (FIH) 試験において薬物トランスポーターが関連する薬物相互作用解析を実施することの議論も始まっています.
代謝物と一言でいっても,糖やアミノ酸,脂質など多岐に渡り,分析上すべてのシグナルにアノテーションがつけられるほどには成熟していません.そこで,本年度の年会では,メタボローム解析に焦点を当て,「薬効・有効性バイオマーカーとして,いかにメタボローム解析の結果を活用するか?」と題したシンポジウムを企画しました.
第32回年会における活動
メタボローム解析は,薬剤や疾患に応答して変動する代謝物に注目することで,疾患の機序を探り,新たな創薬標的の提案,患者層別化,医薬品の有効性・安全性バイオマーカーとして期待されている技術です.奥平典子先生(第一三共)に,創薬・医薬品開発におけるバイオマーカー研究に対する展望をご紹介いただきます.新学術領域「脂質クオリティが解き明かす生命現象」の領域代表者を務める有田 誠先生(慶應義塾大学・理研)に,リピドミクス研究の最前線をご紹介いただきます.小柳 悟先生(九州大学),山崎 真先生(田辺三菱),三枝大輔先生(東北大学)には,医薬品開発におけるメタボロミクス研究の有用性について,アカデミアおよび製薬企業の観点からご講演いただきます.今回のシンポジウムセッションには,ショートオーラルとしてまだ途上にある研究も紹介していただくことにしました.増尾友佑先生(金沢大学),竹原一成先生(第一三共)には,それぞれ代謝物動態に関連するトランスポーター研究の成果をご紹介いだきます.メタボロミクス解析により,薬物投与や疾患など特定の要因と関連する代謝物を見つける部分は,新たな研究のスタートであり,創薬標的分子やバイオマーカーとしての妥当性などを検証していく必要があり,薬物動態研究が貢献する研究領域であると確信しています.メタボロミクス研究について,いかに薬物動態学研究者が取り組んでいくべきか議論したいと思います.
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